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第6回(2016.1.25)

~朝潮橋 ボタン屋のお好み焼き

地下鉄朝潮橋駅の西側に八幡屋商店街と呼ばれる古い商店街がある。 昭和23年に創設された復興市場が八幡屋市場に改組された頃、時期を同じくしてこの商店街が発足したそうだ。 店舗数は現在約50店舗程度。 シャッター街の商店街が目立つ中、今なお、街の活気を感じることができる珍しい存在だ。僕はそんな商店街を一人歩く。 いつもの如く、気になる看板を見つける。 『ボタン屋のお好み焼き』 ボタン屋がお好み焼きをやっているのか。それともお好み焼き屋がボタン屋をやっているのか。 <お好み焼き>とだけ印し、手縫いされた暖簾から内部を窺い知ることはできない。

さて、今日も勇気を出して入ってみることにする。 「いらっしゃい」 70代くらいの女性が迎えてくれた。どうやら一人切り盛りをしているようだ。 壁のメニューを見て、僕は豚玉を食べることにした。 「どこから来たん。」 「お仕事なにしてるの。」 店主である女性は僕の緊張をほぐすかのように優しく声をかけてくれる。 こうしたたわいもない会話の合間にも次から次へと近所の高齢者がお好み焼きを買いに暖簾からひょっこりと顔を出す。その度に女将さんは笑顔で迎える。 「ああ、やっちゃん。待ってたで。はよ食べな、お好み焼き冷めるわな。」そう言って背中をさすりながらお好み焼きを手渡す。 「そうかぁ。にいちゃんはそないな仕事をしてるんやなぁ。人の世話をするってことはとても難しいことやね。簡単にできることじゃない。人の世話をするっていうのはそれなりの覚悟が必要なのよね。」

そして僕は一番気になった屋号の由来について話を触れることにした。 元々はこの場所は服屋として30年以上営んでいたそうだ。 「これまでこの商店街、この場所で洋服屋『ボタン屋』をやってたの。ここのお店奥までびっしりお洋服だったのよ。だけど10年前に旦那が亡くなった。その時一緒にお店を畳んでしまおうとおもった。でもね、やっぱり旦那がいた証を残していきたいじゃない。私が死ぬまでは旦那の分は『ボタン屋』という名前を残したい。だからお好み焼きの『ボタン屋』じゃなくて『ボタン屋のお好み焼き』にしたの。」 今なお街のボランティアを役職を歴任し、奔走する店主の元には商店街の自営業者、地域の高齢者がひっきりなしに生活の相談に来る。 酸いも甘いも知った人情味溢れる豚玉はとても暖かかった。

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