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第2回(2015.8.8)

~忠岡町にある焼きうどんや。

大阪府泉北郡忠岡町、ここは日本一小さな町である。

この小さな町に60年以上続く焼きうどんやがあると風の便りに聞いた。 日本一小さな町といえどもよそ者からすると迷路以外のなにものでもない。 とにかく住宅街の中をひたすら歩く。 住宅街の中を10分ほど歩いただろうか、アイスクリンという文字が目に入る。 どうやらたこ焼き屋がアイスクリームも出しているらしい。 屋号を阿蛸弥というそうだ。

バナナ味あいすくりん

「この近くに焼きうどんの店があると聞いたんですが。」 「あそこの電信柱を右に進んだら大きな桜の木があるわ。そこを左に曲がったら暖簾が見えるよ」 見つけた、ここか。 暖簾はあるが名前はない、何処にも看板が見当たらない。 老朽化の為、既に無くなってしまったのかそれとも元からなかったのだろうか。

そっと、木造のドアを開けるとカラカラと音がした。 「いらっしゃい。」出迎えてくれたのはお年の召した温和なご夫婦。 大将は今年で78歳、二代目なんだそうだ。 忠岡町で生まれ、忠岡町で育った。 「元はこのあたりは公設市場でよ。たくさんのお店があったけど次から次へ無くなって。となりはたしか漬物屋だったかなぁ。もううちしかのこってへん」 「もう閉めるんよ。ここ。今年いっぱいかなぁ。もう充分やったし、終わりやな。」 うん十数年前、交通事故に遭い右足の大腿骨を骨折した。 後遺症が残り、足が不自由ながらも店先に立ち続けてきた。

「うちのは出汁がうまいんや。ぐいっと飲んでな。しいたけの味が染みてるやろ。」

喋ってる間にも次々に出前の電話がひっきりなしにかかってくる、全て忠岡町内からだ。 「ああさっちゃんか。元気か?今日は暑いな。今から持っていくわな。おおきに。」 そう言っておばちゃんは焼きうどんをせっせと作り、業務用ポリマラップという特殊な業務用サランラップを使って包んで行く。 「これ買ってからなぁ、便利なんよ。」そう言っておばちゃんは微笑む。 そして木製出前箱にそっと入れ自転車に乗り配達に出かける。

「忠岡町は小さな町や。合併するって話があったけどみんなで反対した。忠岡町は横が短くて、縦に長いんよ。」 おしゃべり好きの大将がふと黙った時、耳に入ってくるのは三台の扇風機の音だけであった。

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